HOME » コラム「馬の体」(一覧) » 馬の体

馬の体

馬の歯医者

草食動物のサラブレッドですが、我々人間同様に歯があります。
歯というものが人間の健康に様々な影響を及ぼすことは、 現在医学的に証明されています。
では、サラブレッドの歯は馬の健康にどのように関係しているのでしょうか?

井上一馬
歯を削ることで噛み合わせをよくする 

 これまでにも馬の歯についてレポートしたことがありますが、競走馬たちのなかで歯の問題を抱えている馬たちが増えていると言われています。
 皆さんの愛馬たちについても、「ハミ受けがあまり上手ではない」、「飼い葉食いが悪くなった」という報告を聞いたことがあるのではないでしょうか。その要因のひとつとして、歯の問題を挙げるケースが増えているのです。
 このような問題について、欧米ではデンタルテクニシャンと言われる、馬の歯医者とでも呼ぶべき歯科技工士たちが活躍しており、日本でも徐々に増えてきています。
施術中の井上氏  今回はそのなかの一人である井上一馬氏に馬の歯が持つ特性や抱える問題点などについて話を伺いました。
 まず馬の歯の特徴について、「人間はすべてが乳歯から永久歯に生え替わるのですが、馬の場合は歯によって生え替わる歯と最初から永久歯の歯に分かれています。更には生え替わる歯も年齢によって分かれているのです」と井上氏は説明します。また、人間との大きな違いのひとつとして「1年間で2~3ミリ程度も伸びてくる」といいます。
「人間でもそうですが、上と下の歯同士が噛み合う形になっています。人間は噛むという動作で食べますが、馬たちはすり潰すという動作で物を食べます。8の字を描くように上と下の歯を擦り合わせるのですが、徐々に歯が伸びてくると、歯のサイドが尖るような形状になりやすいのです。馬の噛み合わせは上の歯が若干下の歯よりも外になる構造なので、上の外と下の内側が尖ってしまうことがあります。そうなると、口の中を傷つけてしまい、食欲がなくなってしまうとか、ハミが当たるようになって嫌がるなどの要因となることが珍しくありません」
 このように尖ってしまった歯を、井上氏をはじめとする歯科技工士たちは、専用のダイヤモンド製の研磨機やヤスリを使いながら削るのです。
「人間と同じように、虫歯にもなりますし、歯周病にもなります。歯に神経も通っていますので、削り過ぎれば痛みも感じます。ただし通常はそこまで削ることはあまりないので、痛みは感じることはまずありませんし、エナメル質が一番表層ではないため、人間の歯よりも削りやすいという違いはあります」
 以前、歯についての話を聞いたときに、馬は虫歯になり難いという説明を聞いたことがあります。
「人間のように歯磨きを必要とはしませんが、歯磨きをしないからと言って虫歯になるということではありません。ただ、尖ってしまうことで隙間ができ、そこに食べた物が詰まったまま放置されることで虫歯になったり、あるいは歯周病になってしまうことがあるのです。そういう意味では、整歯のために削るという作業は虫歯や歯周病対策にも有効と言えるでしょう」
ビットシート 人間よりも削りやすいという馬の歯ですが、井上氏によれば年齢によっても硬度が違うそうです。
「年齢を重ねれば重ねるほど硬くなっていきます。競走馬ですと2歳の頃は柔らかく、機械を使わなくても削れてしまうほどです。その頃には2、3ヵ月に1回というペースで削るのが世界的な基準と言えるでしょう。それが馬にもよりますが、6歳を超えると歯が硬くなってきますので、半年に1回、1年に1回というペースでも構わなくなります」
 歯を削ることのメリットについて井上氏は“食欲の回復と栄養補給”と“ハミ受けの良化”のふたつを挙げます。
 食については「やはり、歯に気になる部分があれば、食べないようになっていきます。酷いケースになると人間のように噛むような仕草で食べるようになってしまうことがあります。この場合顎関節が正常ではなくなっており、長い時間をかけて直していかなければなりません。健常な歯であれば、よく磨り潰せますので、消化を助けることになり、栄養の吸収面も良いのです」と説明します。
 一方、ハミ受けについては、小臼歯と呼ばれる歯の角を削ることでよりスムーズなハミ受けができるようなるといいます。
「永久歯が生えた後にする処置なのですが、ビットシートという(小臼歯を削る)作業をします。そうすることでハミは収まりやすくなり、よりスムーズなハミ受けが可能になるのです」
 人間と同じで、出歯の馬もいれば、噛み合わせの悪い馬もいて、それぞれ馬によって違いはあり、必要としない馬もいると井上氏は言います。ただ、我々も歯に気になるところがあると、集中することができないものです。
 皆さまの愛馬たちも、もし歯が原因で、持つ全能力を発揮できないということになったならば、その損失は計り知れません。1度検査的に愛馬の歯を検診してもらうことを検討してみてはいかがでしょうか。

〒960−8114 福島県福島市松浪町9−23
TEL 024−534−1233 FAX 024−531−5517

ページトップへ