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馬の体
濃厚飼料と馬の体
競馬は現在も様々な進化を遂げています競走馬の日々食べている飼料をみても高い栄養素やカロリーを摂取させることができるようになりました。
ただしそこにはメリットばかりではなくデメリットも存在するようです。
栄養を摂るにもバランスが大事になるのです
鼻出血、蹄葉炎と言った疾病、あるいは筋肉の影響によって起るとされる筋色素尿症である通称〝スクミ〟など、これらの要因のひとつとされているのが濃厚飼料だということは、かつて解説してもらいました。
今回は、その〝濃厚飼料〟がどのように与えられ、会員の方々の愛馬の身体にどのような影響を及ぼしているのか、そしてその必要性などについて、現場で馬たちの身体に触れている松永和則獣医師に話を聞きました。
まずは、現在の競走馬たちの〝食〟の環境、現状について話をしてもらいました。
「まず最初にお話をさせていただきたいのは、濃厚飼料=悪影響ということではないということです。10年前よりも明らかにスピード化が進み、レースでの消耗度も増していて、それに伴い必要とされるエネルギー量も増加しています。そのため、自然と濃厚飼料の量も増えているのです。馬にもよりますし、状況にもよるのでしょうが、1日あたり15000キロカロリー程度摂取しているのではないでしょうか。昔は、草をはじめ、粗飼料と呼ばれる飼料が基本という世界でしたが、いまは栄養士などのアドバイスを受け、厩舎でオリジナルの飼料を使用しているところも珍しくありません。そこには燕麦以外にも、様々な飼料がブレンドされています。それを基本として、例えば筋肉を付けたいと思えばタンパク質を摂取できるようアミノ酸などを与えることで補おうとするように、様々な添加物あるいはサプリメントなどを与えている厩舎が増えているように思います」
人間でも、食事以外に、サプリメントを摂取することで栄養バランスを取ることが珍しくなくなってきていますが、馬たちも同じような感じのようです。
そして、やはり人間と同じように、栄養だけを摂取しているだけでは良くないとのことです。
「競走馬はアスリートですので、我々一般の人間よりもさらに栄養とトレーニングとのバランスが大事になります。0コンマ何秒を競っているなかで、スピード化が進んだいま、馬の身体もギリギリのところまで進化してきています。そうなると、必要なエネルギーも当然増加しています。そのときに、エネルギーが足らなければパフォーマンスが落ちてしまう可能性が高くなるのです。ただし、エネルギー過多になってしまうと、必要以上に脂肪が付いてしまったり、血液が濃くなってしまったりすることで、鼻出血や蹄葉炎など様々な疾病を引き起こす可能性が増えると考えられています」
人間で成人病と呼ばれる病気などは、栄養過多と運動不足が要因と言われていますが、馬も同じということなのです。
「いま血が濃くならないようにと粗飼料を控えて、オイルなどでエネルギーを補給させるなど、様々な手段を講じて、馬に悪い影響が出ないようにしながら、十分なエネルギーを摂取させようと、各厩舎が懸命に取り組んでいるようです。ただ、摂取しているエネルギー量に対して、運動量が十分であれば、悪い影響は出てこないはずなのです」
話は変わるが、以前と比べて馬を取り巻く環境が変わったことも影響しているという指摘もありますが、どうなのだろうか。
「ないとは言えないと思います。昔は、レースに向けてエネルギー量を多くしていって、レース後は一度エネルギー量を下げるというのが一般的でした。しかし、現在の競馬は、スピード化によってレースでの消耗度が高くなったことでより高いエネルギーが求められますし、出走するまでのシステムの変化による部分から、馬を常にレースに向けて高いエネルギーを与える状態を維持しておかなければならないという部分もあるようです。そのため、馬たちの疾病にそういうところの影響が出ている可能性を否定することはできないでしょう」
馬のためにより良い飼料や添加物あるいはサプリメントをという気持ちが、過剰摂取ということになってしまうと馬に悪い影響が出てしまうということなのです。
「これは私見ですが、骨を強くしたいと思ったとき、ビタミンDが必要になるのです。簡単なところでは、日光浴で得ることができますが、昔はビタミンDの注射などもありました。ただ、過剰摂取になってしまいますと、馬が食欲不振や倦怠感などの症状をみせるようなこともありました」
運動と食事のバランス、そして栄養そのもののバランスが、馬たちの身体に取って大切なのだということを馬主の皆様にもご理解していただきたい。