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馬の体

【ウイルスによる病気】

人間にとってもインフルエンザ、新型コロナウイルスなど様々な感染症が猛威を振るっていますが、サラブレッドにとってもウイルスは大変やっかいな病気の要因となっているのです

松永和則
油断していると大流行してしまう

現在、世界中で脅威となっている新型コロナウイルスだが、「馬にもインフルエンザをはじめ、確認されているだけで約50もの感染症が存在します」と美浦トレーニングセンターで診療所を開業する松永和則獣医師は語る。
そのなかでも、人間同様に一番知られているのがインフルエンザであろう。
「古くは1971年の大流行、最近では2007年にも競馬の開催が中止になってしまったということからも、馬インフルエンザが一番有名でしょう。発熱を伴う呼吸器疾患で、感染力が極めて強いとされています。人への感染はないとされていて、ワクチンも摂取が義務付けられておりますので、以前と比べてそこまで警戒されることはなくなっています。とはいっても、ウイルスですので変異します。人間でも、香港A型、あるいはC型というように、毎年流行するウイルスの型が変わり、それに対してワクチンの摂取が行われますが、それでも完璧に感染、発症しないということではありません。実際、ワクチンの成分なども変わっていたりします。現在は世界中を行き来する時代ですし、同じインフルエンザであっても、世界各地では違う型のウイルスが存在している可能性があり、滞在する地での感染ということは警戒しておかなければなりません」

人間における新型コロナウイルスの症状のひとつとして発熱、咳、ノドの痛みなど、風邪に似た症状が報告されている。
インフルエンザの症状も似ているところがあるが、「馬インフルエンザもやはり他の感染症と似た症状であることが多い」という。ではどのような治療法を取るのだろうか。
「発熱の症状があれば、まずは解熱剤や抗生剤を投与します。しかし、ウイルスによる疾病であるときは、抗生剤の効果はほぼ期待できません。そこは人間と全く同じだと考えていただいて差し支えないでしょう。人間でも肺炎球菌を摂取するように、とされていますが、全く一緒です。ただし、肺炎の発症を回避するためにということで、抗生剤などの投与もします」
他のウイルスでは、ゲタウイルスや流産菌などが現場で比較的知られている。
「そのどちらに対してもワクチンがあります。ゲタウイルスに関してはJRAでは摂取が義務付けられていますし、流産菌に関しては繁殖牝馬として北海道をはじめとする馬産地に向かう馬たちには投与して送り出します」
人間の場合、感染症に対しては、手洗い、うがい、そしてマスクの着用が有効とされている。しかし、馬に同じことをというのは無理な話だろう。そこで松永師はより良い健康状態であることが大事だと語る。

「普段からの体調管理という部分が大切だと考えます。当たり前ですが、疲労が蓄積していれば、免疫が低下してしまい、抵抗力が下がってしまいます。競走馬たちは、厳しいトレーニングを行っていて、激しいレースをしています。更には、そのために以前にもお話をさせていただきましたように、ストレスによって胃潰瘍を患っている馬たちも少なくありません。検温など管理はもちろんですけど、馬の様子を良く観察し、疲労など体調の変化の細部まで把握することで、もしも感染してしまったとしても早期発見が可能となり、適切な初動対応ができます」
ただ、人間とは違い、2007年以降、馬インフルエンザの流行は確認されていない。そこにはワクチンだけでなく、もうひとつの効果があるからではないかと松永医師は続ける。
「ここ最近は、現場では感染報告はありません。ワクチン摂取の徹底という効果もあるでしょうし、海外との往来については必ず義務付けられている〝検疫〟の効果もあるでしょう。特に、帰国に際しては2週間隔離されることとなりますが、万が一感染していたとすると、この期間に検査、そして変化を確認することで感染症の日本への侵入をかなりの割合で防ぐことができているのではないかと思います」
人間の世界でも、変異を繰り返し、人知を超える猛威を振るってきた数々の感染症ウイルスたち。
馬の世界でも、我が国では感染確認されていないものも数多く存在しており、ワクチンや検疫によって侵入を許していないからと言って安心してはいけないのではないだろうか。
やはりでき得る限りの予防と、早期発見こそが、皆様の愛馬と競馬の開催を守る手段であるということなのです。

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